【ベトナム】出張報告 農村部の学校・奨学生の実情
いつもご支援いただきありがとうございます。民際センター理事長の神田です。9月中旬、出張でベトナムを訪れました。
カンボジアやラオスと比べると、道路・水道・電気などのインフラは整備されており、学校の校舎や設備も比較的充実しています。全体として、経済発展の著しいタイと類似した印象を受けました。
学校では生徒全員が制服を着用しているため、一見すると貧富の格差は感じられません。しかし、先生方によれば、少数民族の子どもたちや水上住宅で生活する子どもたち、親が不在だったり、不安定な農業収入のみで生活が困窮している家庭が多く、支援を必要とする子どもが多いということでした。
ドンナイ省で訪問したお寺では、42名の孤児(男女)と行き場のない大人約30名が共同生活をしていましたが、このような寺院はベトナム各地に多数存在するといいます。ベトナム戦争終結から50年が経過していますが、いまだに枯葉剤の影響により奇形児や身体障がい児が出生しているといわれており、そのような子どもが生まれると、親が育児を放棄し、お寺の前に遺棄してしまうケースもあるという深刻な問題も伺えました。
民際センターベトナム事業所(EDF-Vietnam)代表のVan氏によると、私たちが普段接している都市部や観光地のベトナム人は全人口の約30%に過ぎず、残りの70%は農村地域に住む貧困家庭であるとのことでした。実際に農村部の奨学生家庭を訪問し、町を歩く中で、いまだ多くの子どもたちが支援を必要としている現状を肌で感じることができました。
今回は、ベトナムの支援校訪問および奨学生の家庭訪問のご報告です。
ドンナイ省の支援校訪問
今回訪問したグエン・ティ・ミン・カイ中学校は、比較的規模の大きな学校で、生徒数も多く活気にあふれていました。到着後、ディン・クワン市長や校長先生、及び生徒代表者らと面会し、現地の教育事情や地域が抱える課題、そして今後の支援の方向性などについて意見交換を行いました。先生方からは、経済的に厳しい家庭が多く、支援が必要であるとのお話を伺いました。
その後、英語と国語の授業を行っているクラスを参観しました。外国人の来訪が珍しいこともあり、教室に入ると子どもたちは皆、興味津々の表情でこちらを見つめ、笑顔で元気よく挨拶をしてくれました。
子どもたちの純粋な好奇心と学ぶ意欲、そして将来への希望に満ちた輝く眼差しに触れ、このような子どもたちの可能性を広げる教育支援の大切さを改めて実感しました。

英語の授業風景

水上住宅(ラ・ガー橋より/支援校には少数民族や、水上住宅から通っている子どもたちもいます)
ドンナイ省の奨学生訪問
グエン・ニャン・ギエくん(支援者:H様)
腎臓病を患うお母さんと二人で暮らしています。お母さんは体調の関係で外に働きに出ることができず、家の前で麺類を提供する小さな露店を営み、生計を立てています。
ギエくんは絵を描くことが大好きで、最近描いた作品を嬉しそうに見せてくれました。将来は建築家になりたいという夢を語ってくれ、その目には希望と強い意志が感じられました

ファン・ルオン・アイン・クインさん(支援者:K様)
3年前にお父さんが母親を殺害し、現在服役中のため、祖父母と兄弟、従妹たち計7名で暮らしています。想像を絶する辛い過去と厳しい生活環境の中にありながら、話をしている間、彼女は一度も暗い表情を見せず、常に明るい笑顔で対応してくれました。
窓のない小さな部屋の片隅には、子どもたちが着る制服がびっしりと吊るされており、限られた空間の中で工夫しながら暮らしている様子が伝わってきました。困難な環境でも懸命に前を向く姿に、心を打たれました。

ブウ・ソン寺院訪問
訪問した寺院では、42名の孤児(男女問わず)と、行き場を失った約30名の大人が共に生活していました。住職によると、赤ちゃんや障がいを抱えた子どもが寺の前に置き去りにされることがあり、そうした子どもたちを寺院で保護し、学校に通わせているとのことでした。お寺で暮らす子どもたちの中には、ダルニー奨学金を受けている奨学生も数名おり、支援が確実に現地へ届いていることを確認できました。
また、12年前にこの寺院で生活し、ダルニー奨学金を4年間受けて中学校を卒業した後、料理の専門学校へ進学し、現在は日本で働いている卒業生がいるという嬉しい情報も得ることができました。
教育支援によって夢を実現し、国境を越えて活躍している元奨学生の存在を知り、改めて教育の力とダルニー奨学金の意義の大きさを実感しました。

障がいを抱えた子どもの前で会話をする市長さんと住職さん
フンイェン省の奨学生訪問
グエン・ティ・フエン・チャンさん(支援者:H様)
母親と父親が共に不在のため、祖母とお話しをしました。
お母さんは肺がんを患い、腎臓などにも転移していて入院中とのことです。病状は厳しく、祖母も深い心配を抱えていました。お父さんは発達障がいを抱えており、フエン・チャンさん自身とお兄さんも同様の障がいを抱えています。
自宅から学校まではおよそ6kmと遠く、これまでは祖母が毎日送迎していましたが、最近足を怪我してしまい、それも難しくなりました。今後は、学校近くに住む親戚の家にお世話になる予定です。
学校では、発達障がいが理由でいじめを受けたこともあり、その際に手に大きな傷を負ったと、その傷を見せてくれました。それでも彼女は、勉強を続けたいという気持ちを強く持っています。
家には収入を得る人がいないため、中学校を卒業したら働いて病気のお母さんを助けたいと話していました。そのためにも、まずは中学校をしっかり卒業することが目標です。民際センターの奨学金支援は、彼女にとって希望をつなぐ大きな支えとなっています。

グエン・ティ・キム・ガンさん(支援者:S様)
お母さんとお話しをしました。
以前はごく普通の生活を送っていましたが、ある日突然、お父さんに多額の借金があることがわかり、そのまま失踪してしまいました。家も手放すことになり、しばらくはボロボロの家で苦しい生活を続けていたそうです。
最近になって、政府や民間からの支援を受け、小さな新しい家を建て始めることができました。この日は、建設中の家の前でお母さんにお話を伺いました。
お姉さんは高校2年生で、卒業後はすぐに働く予定です。キム・ガンさんは英語が大好きで、「将来は英語の先生になりたい」と笑顔で話してくれたので、英語で話しかけてみたところ、流ちょうに答えてくれ、その自信に満ちた表情がとても印象的でした。
厳しい生活が続きますが、彼女の夢に向かう姿に、教育の力と支援の大切さを改めて感じました。民際センターの奨学金は、彼女の未来への一歩をしっかりと支えています。

皆様の奨学金支援は、こうした恵まれない境遇の生徒たちの就学と未来を支えています。各国の事業所職員、日本の民際センターの職員一同、皆様からの尊いご支援を大切に現地の子どもたちに届けさせていただきますので、何卒ご⽀援ご検討の程よろしくお願い申し上げます。





